◆352日目

オレが今の職場に転勤して来て、まず探したのが「人の来ないスポット」だった。フットバッグとは関係なく、だ。

フットバッグを練習し始めてからも、特に決まった練習場所はなく、屋上だのボイラー室だの非常階段の踊り場だの、人目を忍んで毎日のように練習場所をコソコソ変えて蹴っていたのだ。今の練習場所に固定されたのはさらに二ヶ月後のことである。山田と一緒に蹴るようになってからだ。

今の場所は、昔は何かの製造施設だったのだが、もう何年も前に閉鎖されてて誰も寄りつかなくなってた建物だ。奥にはロッカーも残っていて、その先の廊下は我が中年フットバッグ集団「ガンマプリン」のアジトだった。

ところが、最近になって建物内の空部屋を様々なグループが使うようになって、急に人通りが激しくなってしまったのだ。はっきり言ってちっとも秘密の練習場所じゃない。ただ、こっちも面倒くさいのでコソコソ隠れなくなったってだけ。もう一人じゃないし、我々のレベルもまあ、「初めて見る人でも、何をしようとしてるかは分かってもらえる」位には達しているし。でも本当は不満でしょうがなかった。すれ違うヤツらが、オレたちに投げる視線は様々だが、どいつもこいつも気に食わなかった。みんな敵だ畜生。

そんな我々についに春がきたのだ。先週、廃プラントの一部が撤去され、ガラーンと体育館みたいな広大なスペースが出現したのだ。天井は高いし、明るいし、誰も来ないし、もう本当に幸せだったのだ。ところが今日になって、その場所にまた工事業者が入ってきた。いったい何を作る気なのか。もう心配で心配で仕事どころではないのである。